例えば仲間が笑ってくれれば幸せ。

家族が笑ってくれれば幸せ。

 

お前が笑ってくれれば幸せ。

 

幸せについて、

本気出して

考えてみた

 

「どーしたのぉ?ティッキー」

う〜んと「考える人」と同じポーズをとって唸っている兄に、どこからとも無く現れた妹は、勢いよく飛びついた。

「うぉ、ロード!」

背後からの強襲に、青年は危うく椅子から転げ落ちるところだ。

「考え事してたんだよ。ほら、後ろで体重かけてないで、こっちに来いよ」

この体勢つらいから。

押しつぶされた形の青年は、今だ背中に乗ったままの少女を膝の上へと移動させて、調度胸の所へ来た妹の頭へと顎を乗せる。

「ティッキー、おもーい!」

キャハハハと歓声を上げて、少女は機嫌よさ気に笑う。

「こらこら、失礼なこと言うなよ。おれは標準だぞ」

「えー?太ったんじゃなぁい?」

「嫌なこというなよ」

目玉だけきょろりと動かして、兄の顔を見上げる少女に、顔を顰めてみせる。

言われた言葉は結構痛い。

なんせ、この家に戻ってきてから、出される物が出される物だ。

白い自分の時とでは、食べる物が圧倒的に違う。

ロードの言うとおり、太ってるかもしれないと不吉な事が頭に浮かぶ。

「…太ってるか?」

「なに?本気で心配してんのぉ?ティッキーって結構ナイーブだよねぇ」

思わず真剣な声で尋ねてしまうが、妹は可笑し気に言うだけで答えてはくれなかった。

微妙なお年頃なんだと胸中で呟きつつ、妹の笑顔に自分も笑いが零れてくる。

例えば―――

例えば、家族が笑っていれば幸せ。

これは間違いが無い。

でも。お前が泣いていて、家族が笑っていると不幸せ。

明らかに比重はお前に偏っていて、お前が幸せなら、他の家族が泣いていても、それでいいとか思っちまう。

これって結構重大事。

お前が笑っていると幸せだから、ホントはいけないとわかっていても、思わず我侭を訊いてやりそうになる。

今のまま、幸せそうに笑っているお前を見ると、そのままいさせてやりたくなる。

でも、お前がそばにいれば、オレももっと幸せだと思うんだ。

所詮誰もが利己的で、自分の幸せを追い求めるものだ。

 

黒の中の白。

白の中の黒。

互いが在るからこそ、より引き立つ対なるモノのように。

 

最後のノア。

一番下の弟。

お前を求めてやまない。

お前が生まれるのを、ずっとずっと待っていたんだ。

家族になろう。

そんな仮初のhomeなんかじゃなくて、本当のhomeへ帰ろう?

たくさんたくさん、この世の何者も敵わないくらい、愛してやるから。

 

だから、今はちょっと、虐めるのを許してくれな?

お兄ちゃんも、心が痛むのです(ほんのちょっと、愉しいと思うのは内緒だ)。

 

心の中で今だ産声をあげぬ弟に懺悔して、ティキは妹の体をヒョイッと持ち上げて膝から下ろしてやる。

「なにぃ?」

不満そうに唇を尖らせるロードの頭で掌を宥めるようにバウンドさせて、手品のように取り出したステッキを握る。

「出かけるのぉ?」

「そう、お仕事に」

「働き者ー」

帽子も取り出して被る兄と同じように、ロードはどこからとも無く取り出したキャンディーの包装をペりペりとはがして口に咥えた。

「まぁ、ティッキー楽しみにしてたもんねぇ。あの子が産まれるの」

もごもごとキャンディーを舐めつつ、目を細める少女は嫌に大人びて見える。やることはまるっきり子供だが。

「本当にもうすぐだから、早く会いたくてたまんないんでしょう」

チェシャ猫のように置かれた寝椅子に寝そべる少女を、青年は帽子の位置を直すのに覗き込んだ鏡から見返して苦笑した。

「まぁな。だから、より早く無事に産まれて来るように、お膳立てをちゃんとしてやらないとな」

「ブラコンー」

「悪くないだろ?別に」

堂々と胸を張ったティキに、ロードは呆れたように溜息をついて、出現させた扉に消えて行く背中を見送ってやった。

 

 

 

 

 

 

未だ遠いところにいる、親愛なるマイ・ブラザー。

お兄ちゃんはお前がもう一度産まれる日を楽しみにしています。

 

お前が側にいてくれれば、お兄ちゃんはもっともっと幸せになれるでしょうから。

 

 

 

 

 

未だエクソシストで、自分がノアに生まれ変わるとは知らないアレン。

呪いが進行すると、ノアになるんですよ。唯一の白のノア。(この辺、銅貨からネタをもらってます。ありがとう、銅貨!(事後承諾だがな))

人間を守りたくて、仲間を大好きなアレンですが、ノアになるとそれとこれとは別て平気で仲間に手を上げます。

愛してるからこそ壊す。

その愉悦。